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花の雑談・論評





キク談義あれこれ








キク談義@:花屋に売っていなくても生産量が最大である不思議
2007.12.7





 切り花で圧倒的に生産量が多いのはキクですが、不思議なことに花屋のショウケースにキクが並んでいる光景をあまり見かけません。有ってもほんの少しスミの方にあるだけです。本当に不思議な花です。右図を見れば分かるように、キクは切り花生産量の37%も占めるダントツの比率なのです。三分の一以上なのです。もっとも、キクと一口に言っても、スプレイギクや小菊もありますから、これらを除いてもなおかつ、21%を占めているのです。五分の一以上を占めてやはりダントツの生産量なのです。

 この中大輪のキクの生産量が、何故に多いのかはここで解説するまでもなく、葬儀花として使われているからです。キクは葬式でだけ見かける花だと云っても過言ではありません。盆、正月、お彼岸などの物日には、少しは花屋に置いてありますが、この場合でも、仏壇や墓参のために売れるのであって、あくまで、仏さん用にしか使われないのが現状かと思います。

 では、キクの花はいつのまに、仏花になってしまったのでしょうか。キクは天皇家のご紋章になっているほどですから、本来はたいへんに目出度い花であったはずです。秋には、菊花展が各地で開催され、優れた育種力と栽培技術を誇示するかのように競い合われます。これは日本の誇るべき園芸文化なのです。ここでは葬儀の片鱗もありません。
 
 キクが葬儀花になってしまった歴史は比較的新しいと思うのですが、この論議はこの項の目的ではありませんので割愛します。ここで、私が云いたいことは、キクが葬儀花以外に使われないまま、放置しておけば、切り花キクの将来の見通しは、明るくないと云うことに尽きます。現在でもすでに、葬儀用に使う花は多様化しており、キクの独擅場では無くなっています。そして、花全体としても、葬儀用需要が飛躍的に伸びる要素はあまり無いと見て良いでしょう。となれば、現状のままではキクの切り花需要が伸びることはあり得ないでしょう。

 要するに、キクの復権運動をしなければなりません。復権は保守的な意味ではなく、葬儀花としての固定概念から脱却するための過去への意識的な復権です。積極的なイメージチェンジを計る努力が必要だと思います。キクに新鮮さを感じさせるそんなキクの雰囲気が欲しいものです。




キク談義A:日本ではキクは蕾だけを観賞している
2007.12.7





 日本では切り花キクの本当の美しい姿を見ることが出来ません。世界的に見ても希有な例ですが、花の開いたキクは、日本のどこの花屋に行っても売っていません。葬儀の祭壇も蕾だけで、花の開いた美しいキクは並んでいません。

 先日、花屋さんの若いデザイナーの女性達に、満開のキクを見せたら感動していました。こんな大きなキクは日本にはない、どこの国で作ったものかと驚いていました。何のことはない、葬儀に使うのと同じ品種で、温室内で満開に開かせただけなのに、プロの花屋さんがこの美しさを知らないこの不思議。この大きなキクの花をディスプレイに使う気はないかと聞けば、使いたい、使いたいの連発。でも、この花は実際には入手が大変に難しい。流通していないのだから。それほどに、日本ではキクの花の美しさが、業界で利用されていないのです。

 話は変わりますが、キクの切り花の輸入がたいへんに増えています。このキクを輸出する側の国で、見ているとたいへんに面白い現象が見られます。それは、対日輸出用の商品だけが、説明を受けなくても区別できることです。答えは単純です。蕾状態の花束を見ればよいのです。右の写真は、中国・廈門のキク生産農場で写したものですが、右側部分は日本向け、左側部分は中国国内向けです。中国国内向けと言えども、満開状態ではありませんが、日本向けは異様につぼみが堅いのが分かります。左の写真は、マレーシア・キャメロンハイランドで写したものですが、何ヘクタールもある大きなハウスで、超満開状態のキクが美しく咲いていました。これから出荷が始まるのです。日本では考えられない咲き前です。それほどに日本のキクの流通状態は特異だと云っても良いでしょう。

 日本のフラワーデザイナー達は、花材にキクを使おうとしません。あれは仏花だからということで敬遠しているのも事実ですが、それ以上に、本当に美しいキクの花を見たことがないからだと思えてなりません。蕾状態で葉が目立つ今のキクの姿を嫌っているのでしょう。しかし、欧米では、ホテルやビルのロビーなどのディスプレイに、大輪のキクはかなり使われています(写真左2段目)。

 蕾を愛でるのは日本の文化なのだから、日本人は満開の花よりも、蕾の方を好むとの意見を言う人もいます。確かに日本はわびさびの文化を持つ国ですから、これを否定するわけではないのですが、でも、ならばカーネーションやバラはどうなのですかと反論したくなります。バラやカーネーションは国際的に見ても、日本の切り前とほとんど同じなのです。キクだけが特異なのです。単純に現状を肯定するための理屈を述べているだけのように思えます。

 先日、愛知農総試の東三河農業研究所の温室で、たまたま試験用に栽培している満開状態のキクを見ました(写真右側)。やはり美しいですが、農家の生産温室でこのような光景を見ることは日本では不可能です。同じ品種で、同じ栽植密度で、今が出荷期というのがその左側の写真です。この蕾で観賞せよと云っても個人消費が伸びるとはとても思えません。

 ただし、今の業界では、満開の花を出荷しても、「咲きすぎ」として、おそらくまともな価格では売れないでしょう。買い手すらつかない可能性があります。既存の「蕾」流通ルートの中にどっぷりと浸かった固定概念が、がっちりと固まっていると思いますから、相手にしてもらえないと思います。このためには、既成概念にとらわれない人たちの間で、そして、フラワーデザイナー達と連携をとって、新しい消費拡大を目指す意気込みで、新しいシステム、ルートの確率を図るより仕方ないでしょう。キクの消費拡大を図るなら、キクの花はこんなに豪華なのだということを消費者に知っていただき、これを提供する努力が生産側に必要です。




キク談義B:キクも結構ディスプレイに使える
2007.12.7





 日本のフラワーデザイナーは、ディスプレイやアレンジメントにキクをあまり使おうとしないように思います。いつの間にそうなったのかよく分かりませんが、キクの花色が、地味なことも影響しているのでしょうが、葬儀花としてのイメージが強すぎるのかもしれません。なんだか、キクを使わないことが、フラワーデザイナーのステータスのように思い込んでいるデザイナーもいるように思えてなりません。でも、だからといってフラワーデザイナーを批判してもこれは見当違いかもしれません。メーカー側(生産者側)も、フラワーアレンジメントに好適な材料を提供しているだろうか、あるいは、デザイナーとタイアップしたキクの使い方を宣伝しようとする努力が不足していたかなどの反省も必要なように思います。

 ところで、先日(2007年11月)に台北で開かれた「2007台北国際花卉展」を見てきましたが、ここではキクを使った見事なディスプレイがたくさんあったのに驚きました。左上写真の鳳凰を模したデスプレーは、間口が10メートルほどはある規模の大きいディスプレイで、白の中大輪菊を使った見事なものでした。これは台湾のお客さんの注目の的でした。よく見ればバックには日本の象徴である富士山が描かれていますが、これは実は日本の花市場のブースでしたから、あるいは、日本のデザイナーの作品かもしれません。もしそうなら拍手を送りたいものです。日本でもキクを使ったこのようなディスプレイを見せて欲しいものです。

 トナカイの菊人形?(写真右上段)も注目を集めていましたし、その他にもキクを使ったブースはたくさんありました(写真左2段目、3段目)。キクの生産が多い国ですから、あまり違和感がないのかもしれませんが、日本もまたキクの生産がたいへんに多い国なのです。日本でも、キクを使ったデスプレイが増えることを期待したいと思います。




キク談義C:キクの花を染める
2007.12.7





 この美しい色合いのキクはどう思われますか(左上段写真)。パステルカラー調の色彩はキクにはあり得ない色ですからたいへんに新鮮さを感じます。見事な染色のように思います。切り口から色素を吸収させる方法で染色したキクです。この染色法の場合は、葉まで着色してしまう難点がありますが、このような淡い色に染色した場合には、葉の着色はほとんど気になりません。

 そんなことよりも、このような見事な染色は、キクの新しい使い方を開発できそうに思えます。新しい需要喚起が出来るに違いありません。キクは、バラやカーネーションに比べると花の色が少なく、アレンジなどに使うときに、どうしても用途が限定されがちになる難点がありました。でも、写真のようなキクの花色だと、用途の幅がたいへんに広がりそうに思えます。

 さらに、凄いことに右写真のように、三色染め、4色染めのものまであります。一つの花で、三分の一あるいは四分の一ずつ、異なった色素を吸わせて、染色しているのですが、ファンタステックな雰囲気が出ています。これもまた、面白い用途に使えそうです。

 この三色染め分けは、バラの方が先輩で(写真左2段目)、こちらの方は、元々花色の豊かな種類ですから、どちらかと言えば、原色系の鮮やかな色合いを使って染色する傾向が強いように思えます。

 染色は本来は、自然の美しさを愛でる花の道からすれば、邪道なのかも知れません。しかし、ここで云いたいことは、新しい消費拡大に向けての努力も必要だと言うことです。従来、キクの業界はその取り組み方が足りなかったのではないかと思えます。その意味で、染色による需要拡大もその努力の一つとして評価されても良いのではないかということです。写真で示したキクの染色は、愛知県農業総合試験場が研究開発中のものです。

 キクはたいへんに長持ちする花で、花瓶に活けた後も、どんどんと花が開いてきます。このために、一般に流通しているような蕾で切った花では、染色しても後から伸びてくる芯の方の花弁は、品種本来の色(たとえば白)になってしまい、せっかく染色しても、花の周辺だけが染まった状態になってしまいます。だから、満開状態で、キクの花が最も美しく見える状態のものを染色しなければ、この美しさは保つことができません。

 ちなみに、キクの染色は、外国ではかなり一般的に行われています。写真右2段目の写真は、中国・長春市で写した盛花です。中国らしい強烈な原色で染色していますが、これはこれで新しい需要拡大に努めている先輩として、敬意を表しても良いように思えます。




キク談義D:キクの輸入が増えている@マレーシアのスプレイギクを考える
2007.12.7





 キクの切り花は、このところ最も急速に輸入が増加している品目で、すでに、2億本は越しているのではないかと云われています(図右上段:2005年現在1.8億本)。まさに右肩上がりそのものです。

 特に、マレーシアからのスプレイギクも輸出攻勢が凄く、既に1億本を超しています(図右2段目:マレーシアのキクの詳細はここをクリック)。さらに最近は、ベトナム産のスプレイギク、中国産の中大輪キクの輸入もたいへんに増えています。2005年現在の国別輸入の比率は図左上段のとおりです。

 スプレイギクでは、国内消費量の35%程度を既に輸入品が占めているように思われます。これだけ輸入が増えると、日本のスプレイギクはどうなってしまうのでしょうか。深刻な問題と云うほかありません。

 マレーシアのスプレイギクの、日本での取引価格は、国産より高いのが普通です。「低賃金の国で生産される輸入品に価格で対抗するのはたいへんだから、品質で勝負するほかない」というのが、従来からの輸入品に対する一般的な考え方であったのですが、これが必ずしも当たっていないのが最近の傾向のように思えます。これを端的に示したのがマレーシア産のスプレイギクでしょう。国内平均価格より1本あたり10〜20円高い場合が多いのです。たいへんに衝撃的というほかありません。何故マレーシア産の方が高いのでしょうか。

 まずは、マレーシア産スプレイギクの品質はなかなか良いと思えます。ただ、ここで、品質とは何かという原点に立った議論が必要な気がします。マレーシアは日本向けだけの生産をしているわけではありませんから、いわば国際商品としてのスプレイギクを生産しています。そして、天恵の気候条件と優れた栽培技術に支えられ、がっちりとした、どちらかといえば剛直な感じを受ける枝振りで、着蕾数もかなり多いものが生産されています。これを見て、スプレイギクらしい「しなやかさ」が無いという批評をする人もいます。その通りなのですが、それでもマレーシア産が高く売れるという実態から見れば、エンドユーザーはこのような品質を望んでいると見ることもできます。とすれば、「しなやかな」スプレイギクが品質要件として重要であると誰が望んで、誰が決めたことなのでしょうか。スプレイフォーメーションはこうでなければならないと勝手に品質基準を流通段階のどこかで決めてかかっていたという問題はなかったでしょうか。この点は色々な考え方が出来そうですから、断定的には云えませんが、しかし、マレーシア産の品質が高い評価を受けている現状があることも確かです(写真左2段目:マレーシアの大規模なスプレイギク生産の風景)。

 もう一つ、当然のことながら、流通上の問題が大きいであろうことにも思いをいたさなければならないでしょう。大きなロットで安定供給され、しかも、あらかじめ価格設定が容易であるという典型的な大規模予約相対ができるということも、マレーシア産が考えされている大きな要素のはずです。多少は価格が高くても、安心して買えるというメリットは大きいに違いないと思います。

 品質と典型的予約相対機能が輸出品の強みだとすれば、自ずから、国産品の対抗策についての思案が出来るように思えます。産地は既成概念、既成の流通体制から、一歩踏み出す対応策を講じなければならない段階にあるとの強い認識が必要な時期になっていると思います。




キク談義D:キクの輸入が増えているA中国の中大輪ギクを考える
2007.12.9





中国からのキクの輸入が急増しています(図右上段)。まだ、量的にはマレーシアのスプレイギクに遠く及びませんが、その伸びはかなり急速です。

 中国からの輸入は、マレーシアと異なって中大輪ギクが主流です。中大輪ギクは日本のキク消費量の主流をなすもので、まだまだ輸入量の比率は低いのですが、日本の大きなマーケットをターゲットにして多くの国が日本市場を注目していますから、比率が低いと云っても楽観できる状況ではありません。

 中国のキクの輸出用産地は、華中、華北(北京、天津、遼寧、山東、江蘇など)の温帯地域と華南(福建、広東、海南)の亜熱帯地域の二つに大別されます。この両者は気候がかなり異なるので、前者は主に秋、後者は主に冬に対日輸出されています。したがって、中国全体を見た場合は、リレー的な輸出体制になっていると見てよいでしょう。

 中国は、ここで解説するまでもないことですが、大規模な国有農場が多いという点で、国際的に見た場合は特異な経営形態の農場がたくさん存在します。国有農場は、国営ではなく民営ですが、その施設投資などに国費がかなり投入されている農場です。これが中核になって、輸出体制をとるという強みを持っています。しかしながら、中国には現在のところ、周年生産体制を成立させている農場はほとんど無く、年1作型の作付けが一般的です(写真:廈門)。一つの産地で周年供給できるところはなさそうに思えます。中大輪ギクは、その需要が主に葬儀花であることを考えると、周年安定供給がたいへんに重要ですが、この点、中国にはそのような産地は現在のところ見あたりません。現状だけで云うならこれはかなり致命的な欠陥です。

 しかしながら、中国の産物に共通して云えることですが、キクの価格がたいへんに安いことです(図右2段目)。日本の価格より一桁下がるほどですから、輸送費などを考慮してもなおかつ国産品よりはかなり安いことになり、これはたいへんな脅威になっています。流通業者にとっては、周年供給出来ない産地の欠点など問題ではないほどの価格的な魅力があると云えるでしょう。

 日本で最大のキク生産県である愛知は周年供給体制が取られている産地ですが、一方で、やはり大きな産地である沖縄は冬出荷型の産地で、周年供給型ではありません。日本国内でも周年供給産地は絶対的な条件ではありませんから、中国が周年供給できなくても、価格競争の面でかなり強みを発揮できる要素はあるように考えられます。とすれば、中国の輸出競争に対する影響はまずは沖縄が強烈に受けると見てよいのでしょうか。当然に、間接的に周年供給産地にも価格面での影響が及んできます。たいへんな情勢になっていると見てよいのでしょうか。

 ところで、中国のキクの品質はどうかといえば、日本の産物に匹敵するぐらい優れたものを出荷する農場もありますが、一方で、まだ技術水準の低い農場もかなりあります。中国のキク生産の問題点は、単位面積あたりの生産性がたいへんに低いことにあります(図左)。しかも、先述のように基本的に1作型ですから、3作以上の回転をする日本の生産性に比べると、数倍の差はあるといってよいでしょう。労働生産性もデーターがありませんがかなり低いと見てよいでしょう。

 この生産性の低さは、現状は低賃金によってカバーされていますが、長期的に見ればかなり大きな欠陥になるはずです。為替レートが永遠に現在のように低い状態で続くとは考えられないからです。もっともそのころには生産性は改善されているかもしれませんが・・・。もうひとつ、華北、華中のキク産地は、概して日本のキク産地より冬の寒さが厳しい地帯ですから、そこで本格的な暖房を行って周年供給する産地が発達するとは思えません。しかし、華南地域は亜熱帯気候で、暖房しないで周年生産することが可能なはずです。ただし、夏の高温に耐える夏咲き系の栽培技術を確立しなければ、周年化は困難でしょう。これが確立されるなら、将来、周年供給産地に発展する可能性はあります。そのようなことがあればたいへんに脅威の産地となるように思えますが、まだその段階になるには時間がかかりそうです。むしろ中国は現在のところ、本質的に価格競争で生きる産地ですから、必ずしも周年供給型へ進むとは限らないかもしれません。我が国にとって本当の意味で脅威になる高品質、周年安定供給産地は、グローバルに見れば、中国ではなく、赤道近辺の秋菊だけで周年供給が容易に行える地域になると考えるのがよいのかもしれません。

 一方で、中国の国内事情を少し考えると、花きの需要は極めて旺盛です。バラ、カーネーションなどは日本より生産量が多いのですが、主要花きで唯一キクに関しては日本の方が生産量が多いのです(図右3段目)。しかし、中国国内の花市場で見るとキクはかなり目立つ花で、大きな消費があり、これからも消費は増大するように思えます。これが、対日輸出にとって、制限的な要因になるのか、あるいは、逆に生産量の増加が輸出圧力の方へ作用するのか、現在のところ判断が難しいところです。

 以上のような、中国からのキク輸入の現状は、我が国のキク生産農家にとって価格面でかなり深刻な問題を抱えているのは事実ですが、さて、どのような対策が考えられるのでしょうか。ここで考えたいのは、花きの輸入が増加する要因は、基本的には、低価格への追求よりも、大量安定供給に主因があるはずだということです。我が国産地がそのような視点で、大量周年安定供給を可能とするような体制を整えていこくとがたいへんに重要なように思えます。沖縄もまた台風が来るからという理由だけで周年供給産地の道を避けていては、中国産品とまともに競争せざるを得ない状況になるように思えます。




キク談義E:キクの輸入が増えているB地球規模で見たキク産地はどこか
2007.1218





 世界の切り花の産地は熱帯地域にかなりシフトしています。コロンビア、エクアドル、ケニア、インド、マレーシアなど熱帯地域が世界の主要な切り花産地になっています。これらの国は、マレーシアを除いて、ほとんどがバラやカーネーションなどの産地です。

 ここで、世界の三大切り花であるキク、バラ、カーネーションの性質の違いを考えてみると、キクの主要品種は短日性植物で一季咲き性ですが、バラとカーネーションの主要品種は日長反応のない四季咲き性です(多少は長日性の性質が残っていますが絶対的ではありません)。この両者の性質の違いは、産地の選定や、あるいは栽培にたいへんに大きな相違点となって現れます。

 多くの熱帯地域の産地開発は、冷涼な気象条件、低賃金労働者の確保、輸送の利便性などで選択されていると思えますが、バラ、カーネーションだけを前提に考えるならこの条件だけで十分です。温度や日照に年間の季節変動が少ないことも重要で、四季咲き性ですからこれによって周年的な安定供給が可能になります。

 ところが、キクの場合は多少要件が異なってきます。これに日長条件が加味されるのです。キクの主要品種は、短日性で、限界日長はほぼ13〜13.5時間です。云うまでもありませんが、日本では、夏はこれよりはるかに日長が長く、冬はたいへんに短くなります。ですから、冬は電照で一定の栄養生長を確保した後は自然の日長で花芽分化しますが、夏は短日処理をしなければ花芽が出来ません。短日処理は装備に経費がかかり、また、操作が面倒なので、現在では夏だけは短日処理をしなくて開花する夏ギク系の耐暑性品種を使います。この栽培技術を確立した後、周年生産が可能になりましたが、夏と冬に栽培品種を変えなければならないという問題があります。

 ともかく、短日処理は自動化するには装備費がかかり、手動で行うには手間がたいへんであるという問題があります。このため、熱帯高冷地でキクの産地化を行う場合、短日処理の不要なところが望ましい条件となります。もう一つ重要な要件があります。それは、年間を通じて、キクの花芽分化温度が得られることが望ましい条件になります。短日でかつ花芽分化温度が年間を通じて安定的に得られる地域が、グローバルに見ればキク栽培適地ということになりますが、このように見れば、キクの栽培適地というのは意外と範囲が狭いのです。

  日長は緯度だけの問題で、赤道直下は、年間を通じて日の出から日の入りまでの時間(可照時間)がほぼ12時間です(図右)。日長時間はこれに薄明薄暮を加えますが、熱帯ならこれに0.5時間ほど足す必要がありますから、12.5時間程度、多少長く見ても13時間と見ればよいでしょう。これは、キクにとっては年間を通じて短日条件となりますから、草丈を確保するために30日前後の電照をして後、消灯するだけで一年中いつでもキクを咲かせることが出来ます。スプレイギクの世界最大の産地であるマレーシアのキャメロンハイランドは北緯4度ですから、赤道直下に比べれば多少の年変動はありますが、問題になるほどの変動ではありません。緯度が10℃を超すと短日処理を必要とするシーズンができます。

 もう一つの要件である花芽分化温度は、キクの主要品種はほぼ夜温15℃程度ですから、年間を通じてこれより下がることがなく、かつ冷涼な気候が必要です。これも、マレーシア・キャメロンハイランドの温度を見ると見事にクリアーしています(図左)。ここでは、年間を通じてほとんど温度変動が無く、夜温15℃を少し超え、また、昼温は20〜25℃の間にあり、たいへんに冷涼です。まさに、理想的なキク産地と云うべきでしょう。温室で温度管理してもこれだけの条件を保つのは容易ではありません。アジアでこのような気候が得られるのは、インドネシアのジャバ島にもあり、同じ方法でキクが生産されています。

 キクの産地条件にもう一つ重要なことは電気が安定供給されることです。停電が時々あるような国では、あるいは時に電圧低下が起こるような国では、キク栽培は不可能なのです。そのような国では大規模な自家発電機をあらかじめ準備しておかねばなりません。もし、夜間に2日も停電があれば、柳芽が発生し、まともなキクは作れません。この意味で、気候条件だけでなく、産業経済がある程度発達した国以外では輸出産物を作るような産地形成はあり得ないのです。

 以上で、グローバルに見たキクの栽培適地の答えは明快です。@最低温度が周年15℃を少し超す程度で安定していること、A赤道に極めて近い地域であること、B電気が安定供給されること、の3点ですが、これををクリアする地域は地球全体で見てもそう多くはありません。

 日本へキクを輸出している国々で見れば、中国の華北、華中地域はほぼ日本と同じような日長と温度条件ですが、無暖房で栽培していますから秋を中心にした季節産地です。韓国も同じ環境ですが、暖房をして周年栽培化していますから、これは渥美などの周年型産地と同じです。台湾や中国華南地域は日本より温暖ですが、夏は長日高温であるため、冬型の産地として成立していますから、日本の沖縄県が競争相手になる関係です。ベトナムは、高冷地で冷涼な気候ですが、赤道からはかなり遠く、6月を中心とした夏には短日処理が必要になります。フィリピンのルソン島バギオ高原も冷涼な気候ですが、やはり夏には短日処理が必要になります。以上の国々は電力が比較的安定供給されていますが、ミャンマーの高原にあるキクの大きな産地では、電照が出来ないので日長感応のない夏ギク系の品種を栽培しています。




キク談義F:キクの輸入が増えているC価格の問題か


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