ホームページに戻る海外の花き情報inndexへ

ケニアの花
2007.10.16

ケニアの切り花生産の概要と評論

切り花生産のケニア国内での位置づけと産地の気候



★ケニアはアフリカ東部、赤道直下の国である(左図)。インド洋に沿った地域は典型的な熱帯気候であるが、国土の大部分は、標高1100〜1800mの高原で、たいへんに冷涼な熱帯高冷地気候である。この冷涼な気候は花き生産にたいへんに適している。首都はナイロビで、ここも標高1600m、気候は冷涼である。
 
★ケニアの農業はGDP構成比で25%あり、輸出額の半分を農産物が占る農業国である。国家全体の輸出額の23%は切り花や野菜などの園芸作物、27%は紅茶などの工芸作物となっている。そして、切り花は園芸作物の約6割にもなり、切り花がこの国の経済を牽引していると云っても大げさではない。

★切り花はほとんどが輸出用に栽培され、特に、バラはその75%を占める圧倒的な主力作物である。次いで、カーネーションが多く、最近の傾向としては、トルコキキョウ、カスミソウ、アルストロメリア、スターチス、ヒペルカムなどのその他の切り花が増加する傾向にある。

★切り花の産地は、首都ナイロビの北西約90kmの風光明媚なナイバシャ湖周辺が主なところである。車で走ればおよそ2時間ほどである。この間、車窓からは広い草原にユーホルビアやアンブレラアカシアなどの疎林がある典型的なサバンナの風景が見られる(写真右。詳しくはここをクリック)。ナイバシャ湖周辺の標高は1900m前後である。バラの切り花生産をしている地帯は、1900〜2400m付近に分布している。

★首都ナイロビの気温と降水量を下に示した。ナイバシャ湖周辺はナイロビより200mほど高い程度なので、切り花産地の温度は、この図に近いか、もう少し冷涼な程度である。最低平均気温は年間を通じて11〜15℃の間にあり、最高気温も30℃を超すことはない。サバンナ地帯の特徴で、乾季と雨季は明瞭であり、雨期は3月後半〜5月後半にかけての大雨期と、10月〜11月の小雨期がある。年間降水量はおよそ1000mmほどである。なお、参考までに、日本でのバラの輸入額が第一位のインド・バンガロール高原の気温も並べて表示したが、ケニアの方がかなり冷涼であることが分かる。

ケニアの切り花生産の現況

★ケニアの切り花生産は1980年代後半から本格化し始め、1990年代後半にオランダとイギリスの民間農園が進出し始めてから急激な発展を見るに至った。現在では12,000haを超す切り花の生産面積となっている。発展の初期はカーネーションが多かったが、1990年代半ばにバラの方が多くなり、現在ではバラが主力作物となっている。

★ケニアの切り花生産農場の経営規模は極めて大きい(右写真)。ハウス面積で、200〜300haの大規模な農場があり、小さい農場でもほとんどが10ha以上ある。従業員で見ても5000人を越す農場もあり、1000人を越す労働者を雇用している農場は普通と云って良い。ケニアではプランテーション農業の主作物の一つにバラがあると云って良いのであろう。

★ケニアの花き園芸は、イギリスやオランダの資本と技術移転によって成立し、その生産物が欧州に向かって輸出される。南で生産し、北で消費される関係は、アメリカ大陸でも同様で、このような関係を「花の南北関係」と称している。ケニアのすべての農場が、欧州資本というわけではなく、民族資本やインドなど欧州以外の資本による農場もあるが、大規模な農場は概して欧州資本である。そして、これらは「エステート」と云うにふさわしいプランテーション農業を展開する農園となっている。ハウスの周辺にはフェンスが張られ、農園内には、労働者の住宅(左写真)、小中学校、病院、売店、余暇施設など、このエステート内で生活が出来る環境が整えられており、これらが無料で利用できる。プランテーション農業そのものは植民地時代のいわば搾取形態であったとされているが、独立国となっている現在では、従来とは多少異なって、考えようによっては農業労働者の雇用拡大と福祉厚生面での役割を果たしているようにも思える。

★ケニアのバラの品質はかなり良い。特に、品質管理に関しては、欧州式のシステムが徹底されている。かなりの農場で権限のある品質管理責任者を置いており、作業全体に目を光らせている。さらに、どこのハウスで生産し、誰が包装した商品であるかのトレサビリティが一把づつの単位で行えるようにしている農場すらある。したがって、クレームが来たときの原因追及もかなり徹底して行われている。また、コールドチェーン体制も完備しており、これは農場内だけでなく、ケニアの国内の移動なども含めて、すべての低温管理体制はよく整備されている。その意味では、信用の出来る品質管理をしているといえよう。(左写真は1把づつのバーコード管理をしている例で、選別、結束した作業員、栽培ほ場、出荷日などの追跡が出来る。右写真は品質検査員が選別の点検指導をしている風景)。

★欧州での量販店で販売される花束加工もケニアで行っている。イギリスを始め欧州の量販店では、切り花の日持ち保証を行っているが、その日持ち保証のラベルの貼り付けもケニアで行っている。左写真はイギリスのスーパーマーケットで販売する花束であるが、保証期限の表示から、価格表示までケニアで行っている。日持ち保証に対するクレームがあったときの原因を追及する試験もケニアで行っている。

★ケニアの切り花生産農場のマーケッティング能力はかなり高い。それぞれの農園では、生産は当然のこととして、販路を開拓し、輸出を行うまでのすべて業務を個々の農園の能力で行っている。輸出先などは農園間によってかなり異なり、それぞれが特色を発揮しているように思える。コールドチェーン体制、品質検査体制、トレサビリティの方法なども、その実施方法に農園間の若干の違いがあるにしても、個々の農園のマーケッティングの一環として行われているとみてよい。

★ケニアは気候が冷涼なだけでなく、強風なども少ない。このためハウスの構造は、雨よけのために作られていると言ってよく、外観はかなり素晴らしいが、構造的な強度をそれほど要求しないので、安価な経費で建設されている。もちろん暖房も不要である。さらに、労働力が安価でもあるので、生産費はかなり安い。この故に価格的にも国際競争力は強いと考えてよい。ちなみに、農業一般労働者の賃金は日本円に換算して、およそ1万円前後である。監督者レベルで2〜3万円程度である。識字率が80%を越す国でもあり、働いている状況を眺めても労働者のレベルは高いように思える。また、教育水準の高い労働者の確保も容易で、たとえ欧州資本の企業であっても、サブマネージャーを始め、現場監督者などはケニア人であって、農場はケニア人によって運営されている。

★ケニアから欧州行きの直行航空便は多く、欧州へ輸送するにはたいへんに便がよい。ただし、最近は重油高で、運賃が高騰していること、さらに、ケニア経済の発展とともに、ケニアシリングが高騰傾向にあるので、この点では苦しくなっているとの意見が聞かれる。一方、ドバイに「ドバイフラワーセンター」が、花の物流基地として建設され、不便であったアジア方面への物流もしやすくなったので、欧州一辺倒であった輸出先が多様化する可能性が高まっている。

★切り花の主産地であるナイバシャ地方では、ナイバシャ湖の水位が下がり、水質が劣化していることの問題が生じている。この環境劣化の一因に花き園芸が関与していると云われている。これだけの大規模な農園が、ナイバシャ湖に流入する河川から水を取水し、養液栽培の廃液などを垂れ流したとするなら、必然的に環境破壊が起こるであろうと思える。この対策は重要で、多くの農園では環境対策に熱心に取り組んでいる。たとえば、大きな貯水池を作り、ハウスの屋根に降った雨水を集めて利用しており、また、循環式の養液栽培を行うなど、環境に対してかなり配慮している。しかし、一方で掛け流し式の養液土耕を行っている農園もあり、農園間の格差はかなりあるようにも思える。今後の大きな課題である。

★ケニアの産地としての問題点を考えると、@産地が遠いだけに原油高による輸送費の高騰がかなりの問題になる可能性がある。A道路整備が遅れており、インフラの悪さが目立つ。温度の低い高標高地で、産地が伸びつつあるが、ナイロビ空港までの輸送にたいへん時間がかかる。Bケニア・シリング高によって、相対的に賃金や生産資材が高騰し、生産費が高くなる可能性がある。C環境保護と水資源の確保が、生産費を高騰させる危険がある。D近隣諸国、特に、隣国のエチオピアの花き農場誘致政策の影響で、農場がケニア国内ではなく、他の国で拡大される可能性がある。などが列挙される。これらが、産地としての致命的要因になるとは必ずしも思えないが、解決しなければならない要因であることは確かであろう。

日本のバラ輸入の現状とケニアの位置づけ

★日本のバラの輸入は1990年代後半から急増し始め、その頃から国産品の生産量が減少し始めた。この問題は国内バラ生産者のとって深刻な問題となっている(右図)。

★まずはインドからのバラ輸入が増加し、次いで、韓国からの輸入が増えて一時はインド産を追い越す状況となったが、現在はインドが第一位、次いで韓国となっている(左図)。ケニアは、統計上でみれば、ベトナム、オランダなどと並び、せいぜい5%程度のシェアーであるが、オランダ産にはケニアからの転送荷が半分以上はあると推定されるので、これを考慮すれば既に第三位の国にのし上がっていると見られる。

★従来、ケニアは欧州向けの輸出産地であり、ケニアからの直接的な対日輸出は無かったが、2003年からはケニアからの直接輸出が始まり、統計上にも記載され始めた(右2段目の図)。そして、最近はこれが増加傾向にある。現在もオランダからの転送荷は来るが、オランダからの輸入量そのものが減少傾向にあり、ケニアからの直接的な輸入に切り替わりつつあると見るのがよいと思える。

★ケニアから日本への航空機の直行便はなく、欧州や南アジア方面経由で来るという不便さがあったが、最近はドバイがハブ空港としての役割を強化しており、ドバイから関西空港と中部空港に直行便が飛ぶようになり、ケニアからの輸送はかなり時間短縮されるようになった。とくに、ドバイは世界の花の物流基地を目指した「ドバイフラワーセンター」を昨年オープンしている。ここは、空調の完備したスピーディーな分荷、配送が可能な施設である。このルートが活用され始めており、かなりの時間短縮と品質管理が可能となっているので、今後はさらに対日輸出は増加するように思える。

★ケニアは先述したように、気候が冷涼なので花の大きいバラの生産が出来る。もともと巨大輪の品種と云うよりは、中輪系品種の栽培が多いが、品種特性を最大限に発揮するような良品が生産されている。我が国で最も輸入量の多いインドの産地は、デカン高原の南部に位置するバンガロール高原であるが、ここの標高は800mほどで、上に示した温度の図で明らかなように、ケニアより明らかに温度が高い。したがって、ケニア産よりは花が明らかに小さく、品質的にもケニア産よりは劣る。インドはケニアよりは日本に近いというメリットはあるが、インド国内でのアクセスの問題などを考慮すると鮮度で有利と云うことはあまり考えられない。インド産はいわば値頃感で評価されているのであって、決して高品質の産地という位置づけではない。輸入品の品質的な位置づけは、ケニア、コロンビア、エクアドル産は恵まれた気候条件もあって、輪の大きな高品質品、インド産は値ごろ感のある大衆品としての扱いになっていくのであろうと思える。要するに、インドよりも高品質品の位置づけで、そして、コロンビア、エクアドルよりもドバイ経由の有利さを活かして、ケニアからの輸入量が増加していくように思えてならない。しかし、韓国はもちろんのこと、インドよりも輸送費がかなり多くかかる不利さは免れることは出来ない。今後のケニア産の動向は注目されるところである。
(インドのバラはここをクリック)
(この項のグラフはフラワーデーターブックより作図した)